わたしたちは,会話やテレビ,インターネットなどを通じて多くの情報を得ているが,それらは信頼できるものとは限らない。 その中には,根拠の薄いものや,意図的にゆがめられたものもある。発信者にとって都合のよい部分を誇張したり,都合の悪い部分を意図的に省いたりすることなどを情報操作という。
意図的にゆがめられていない場合でも,情報は偏りを持つことがある。メディアは,物事の全ての情報を伝えることはできず,必ずその一部を切り取って伝えることになる。伝えられる情報は,情報の発信者によって選択されており,程度の違いはあれ,何らかの偏りが生じる。公共性の高い組織など, 信憑性(情報の典拠,一次情報や参考文献の正しさなど,情報そのものの真偽,内容の正しさのこと。一方,信頼性と似た言葉であるが,情報が人や情報機器,情報手段などを経由して伝わるときに,伝わった情報が信じるに足るかどうかを指している。)の高い情報を提供しようとする発信者は,できるだけそうした偏りが小さくなるように努めることになる。 (ニュースでは,正確な情報の発信のために, 5W1Hを盛り込むことが基本である。 5W1Hとは,when,where,who,what,why,howの頭文字が5つのWと1つのHであることから由来している言葉であり, いつ,どこで,誰が,何を,なぜ(動機),どのようにを意味する。)
図1 情報の偏り
情報の信憑性は,発信者がどのような人であるか,一次情報か,二次情報か,公共性の高い組織などによって裏付けられた情報か,個人的感想か,根拠が示されているか,論理的に妥当であるかといったことを確認することにより,評価することができる。
memo
伝えられている事柄を直接知っている人,またはそれを調べた人が発信している情報を一次情報,一次情報を編集してまとめた情報を二次情報という。一次情報よりも二次情報のほうが信憑性が低くなることがある。
信憑性の低い情報は,マスメディアと比べ,情報通信ネットワークにおいて多く見られる。マスメディアによる発信は,公共性の高い組織によって行われており,その社会的責任から信憑性の低い情報を提供することに慎重になる 。一方,情報通信ネットワークでは,個人による発信が容易であり,しかも,誰が発信したかがすぐには分からないという匿名性があるために,無責任な発信が行われやすく,信憑性の低い情報が発信されることになる。
情報は,人から人へ伝えられていくうちに,一部が抜け落ちたり,主観や感想が混ざったりして,しだいに変形していく。(うわさが事実と大きく異なって広まることは,このような仕組みと関係がある。)
信頼できる情報を判断できることは,情報の受信者として,信憑性の低い情報に惑わされない点で重要であるばかりでなく,発信者の立場になったときにも,信頼できる情報を提供する基礎となるために大切なことといえる。
「S銀行が26日に潰れるらしい」と聞いた20代の女性が,友人ら計26名の携帯電話にデマメールを送ったとして,書類送検された。
この女性は,友人からの電話で、銀行が潰れるらしいと聞いて信じ,他の友人が被害に遭わないようにと,預金を全額下ろすことを勧める内容のメールを送信した。このメールが更に転送されたり,電話で伝えられたりして,あっという間に広まり,数日の間に450億〜500億円の預金が引き出された。
S銀行は,被告訴人不詳のまま信用毀損罪で告訴し,警察がメール受信者の事情聴取などで発信元を特定した。女性は送信を認め,「こんな騒ぎになるとは思わなかった」などと話したという。
信用毀損は,懲役3年以下,または罰金50万円以下の犯罪である。親切のつもりで送信したメールが,とんでもない騒動を引き起こした。
情報の海の中で舵をとるのは,わたしたち自身である。この事件は,わたしたちに,全ての情報をそのまま信じるのではなく,取捨選択する能力を養うことの大切さを痛感させる。この女性は,うわさをメールで送ったからこそ次々に転送され,記録が残り,告訴されることになった。メールの怖さを感じさせる事件でもある。
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